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英文契約書の読み方と重要条項:Indemnification/Limitation of Liabilityの交渉ポイント

公開:
2026年最新
英文契約書の読み方と重要条項:Indemnification/Limitation of Liabilityの交渉ポイント - ELTスクール 英語学習コラム
田中 達也

執筆者: 田中 達也|ELT日本法人 代表

海外取引先との契約書が英文で送られてきたとき、「何をどこから読めばいいかわからない」「重要な条項がどれなのか判断できない」「修正を提案したいが英語でどう言えばいいかわからない」——こうした悩みは、法務部門だけでなく、海外取引を担当する事業部門の担当者にも共通するものです。

英文契約書は一見すると膨大で複雑に見えますが、実はパターンがあります。構造を理解し、リスクインパクトの大きい重要条項の読み方を押さえれば、効率的にレビューし、交渉のポイントを見極めることができます。

本記事では、英文契約書の効率的な読み方の手順を3ステップで整理し、リスクインパクトの大きい5つの重要条項——Indemnification、Limitation of Liability、Representations & Warranties、Termination、Governing Law & Dispute Resolution——の読み方と交渉ポイントを、事業担当者にもわかるレベルで解説します。

英文契約書が「読めない」本当の理由——法律英語の3つの壁

英文契約書を読みこなせない原因は、英語力の不足だけではありません。法律英語には、一般的なビジネス英語とは異なる3つの構造的な壁があります。

壁①:一文が異常に長い。英文契約では、1つの条項が数行から十数行に及ぶことが珍しくありません。主語と述語の間に修飾句が連鎖し、"including, without limitation,"(〜を含むがこれに限らない)や"arising out of or in connection with"(〜に起因しまたは関連する)といった挿入句が何重にも入ります。この構文に慣れていないと、文の主語と述語を見失い、「結局何を言っているのか」がわからなくなります。

壁②:日常英語と意味が異なる法律用語。英文契約ではshallは「〜しなければならない」(義務)、mayは「〜することができる」(権利)、notwithstandingは「〜にかかわらず」、provided thatは「ただし〜の場合に限り」という特定の法的意味を持ちます。これらを日常英語の感覚で読むと、権利と義務の関係を正反対に解釈してしまうリスクがあります。

壁③:英米法固有の概念。Indemnification(補償)、Representations & Warranties(表明保証)、Limitation of Liability(責任制限)といった概念は、日本の民法に直接対応する概念がなく、日本語に翻訳するだけでは本質が理解できません。たとえば、英米法ではIndemnificationは過失を要件としない厳格責任(Strict Liability)の考え方に基づくことが多く、日本法の損害賠償(帰責事由を前提とする)とは根本的に異なります。

これら3つの壁を越えるには、英文契約書の構造を理解し、重要条項のパターンを覚えることが最も効率的です。以下のセクションで、実務者向けの読み方ガイドを提供します。

英文契約書レビューの3ステップ——効率的な読み方の順序

英文契約書を1ページ目から順に読み始めるのは、最も非効率なアプローチです。効率的なレビューは、以下の3ステップで進めます。

Step 1:全体構造の把握

まず、契約書全体の構成を30分以内で俯瞰します。英文契約書は一般的に以下の構造を持っています。

契約書の冒頭にはRecitals(前文/Whereas条項)が置かれ、契約締結の背景と目的が記述されます。次にDefinitions(定義条項)が続き、契約中で使われるキーワードの定義が列挙されます。その後、取引の具体的な条件(製品・サービスの内容、価格、納期、支払条件等)が規定され、各当事者の権利義務が詳述されます。後半にはGeneral Provisions(一般条項)として、Indemnification、Limitation of Liability、Termination、Confidentiality、Governing Law等が並び、最後にSignature(署名)とExhibits/Schedules(別紙)が添付されます。

この全体像を先に頭に入れることで、各条項が契約のどの部分に位置し、どのような役割を果たしているかが把握できます。

Step 2:高リスク条項の特定

全体構造を把握したら、次はリスクインパクトの大きい条項にマーキングします。英文契約において最もリスクが大きいのは以下の5つの条項です。

Indemnification(補償条項)、Limitation of Liability(責任制限条項)、Representations & Warranties(表明保証条項)、Termination(解除条項)、Governing Law & Dispute Resolution(準拠法・紛争解決条項)——この5つを優先的に精読することで、契約全体のリスクプロファイルを効率的に把握できます。

Step 3:主語と述語の確認

高リスク条項を精読する際に最も重要なのは、「主語」と「述語」を正確に特定することです。英文契約の条項は長文で修飾句が多いため、主語(権利義務の主体=誰が)と述語(権利義務の内容=何をするか/しないか)を見失いがちです。

実務的なコツとしては、まず主語を特定し("The Supplier shall...")、次にshall/may/shall notの後ろにある動詞を見つけ("...shall indemnify and hold harmless...")、その後に続く目的語と条件を読み取るという順序が効率的です。修飾句は一旦読み飛ばし、骨格(誰が→何をする→誰に対して→どのような条件で)を先に把握してから、細部を読み込みましょう。

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【重要5条項】英文契約で最もリスクインパクトの大きい条項を解説

① Indemnification(補償条項)——「誰が・何を・どこまで」補償するか

Indemnification(補償条項)とは、契約違反や第三者からのクレームに起因して一方の当事者が被った損害を、他方の当事者が補償する義務を定める条項です。英文契約において最も金銭的インパクトが大きい条項の一つであり、弁護士が最も神経を使う条項でもあります。

Indemnification条項を読む際に注目すべきは、3つのキーワードです。Defendは、第三者からのクレームや訴訟に対して、補償当事者が自らの費用で弁護士を雇い防御する義務を意味します。Indemnifyは、防御の結果として生じた損害賠償金や和解金を補償する義務です。Hold Harmlessは、被補償当事者を一切の損害から免責する義務を意味します。この3つは似て非なる概念であり、どれが含まれているかで補償の範囲が大きく変わります。

読み方のポイントとして、まず補償のトリガー(何が起きたら補償義務が発動するか)を確認します。典型的には "arising out of or in connection with any breach of this Agreement"(本契約の違反に起因しまたは関連して)というフレーズです。次に補償の範囲を確認します。弁護士費用(attorneys' fees)が含まれるかどうかは、特に訴訟コストの高い米国取引では重大な違いを生みます。

交渉ポイントとしては、以下の修正が検討対象になります。

過失要件の追加。英米法のIndemnificationは原則として無過失責任(Strict Liability)ですが、日本企業としては "attributable to the fault or negligence of [Party]"(当事者の過失に帰すべき場合に限り)という条件を挿入し、自社の過失がない場合の補償義務を排除することが重要です。

重過失・故意の除外。被補償当事者側に重過失や故意がある場合まで補償する必要はありません。"provided, however, that this clause shall not apply to any Claims arising from the gross negligence, bad faith, or willful misconduct of [the indemnified party]" という除外文言の追加を交渉しましょう。

補償額の上限設定。Indemnification条項単体では補償額に上限がないことが多いため、後述するLimitation of Liability条項との連動で上限を設定することが実務上不可欠です。

② Limitation of Liability(責任制限条項)——損害賠償の「上限」と「除外」

Limitation of Liability(責任制限条項)とは、契約違反等によって当事者が負う損害賠償責任の上限額と、賠償対象から除外する損害の種類を定める条項です。Indemnification条項と対になる条項であり、両者をセットで読むことが不可欠です。

この条項は2つの構成要素で成り立っています。

Liability Cap(賠償上限額)は、当事者が負う損害賠償の総額の上限を定めます。典型的には "the aggregate liability of either party shall not exceed [the total amount paid or payable under this Agreement during the twelve-month period preceding the claim]"(いずれの当事者の累積賠償責任も、クレームに先立つ12ヶ月間に本契約に基づき支払われたまたは支払われるべき総額を超えないものとする)のように規定されます。

Exclusion of Damages(損害種類の除外)は、特定の種類の損害を賠償対象から除外します。Consequential damages(結果損害)、Indirect damages(間接損害)、Incidental damages(付随損害)、Lost profits(逸失利益)が典型的な除外対象です。"Neither party shall be liable for any consequential, indirect, incidental, or special damages, including lost profits"(いずれの当事者も、逸失利益を含む結果損害、間接損害、付随損害または特別損害については責任を負わない)というフレーズが頻出します。

交渉ポイントとして最も重要なのは以下の3点です。

Cap金額の設定根拠。業界やリスクプロファイルによりますが、SaaS契約では年間契約金額の1〜2倍、製造業の供給契約では契約金額の100%、M&A取引では取引金額の一定割合が一般的な相場です。自社のリスク許容度と照らし合わせて妥当性を判断しましょう。

Carve-out(除外項目)の設定。故意・重過失(willful misconduct / gross negligence)、守秘義務違反(breach of confidentiality)、知的財産権侵害(IP infringement)については、Liability Capの適用を除外し、全額補償とする交渉が一般的です。"The limitations set forth in this Section shall not apply to [Party's] obligations under Sections [Indemnification] and [Confidentiality]" のような除外文言を確認しましょう。

IndemnificationとCapの関係。Indemnification条項による補償義務がLiability Capの適用を受けるかどうかは、契約全体のリスク配分を決定づける極めて重要なポイントです。明確に規定されていない場合は、必ず確認・交渉しましょう。

③ Representations & Warranties(表明保証条項)——「言ったことに責任を持つ」仕組み

Representations & Warranties(表明保証条項)とは、契約締結時点で一定の事実が真実かつ正確であることを相手方に保証する条項です。

典型的な表明保証事項には、当事者が有効に設立され存続する法人であること(due organization)、契約締結の権限を有すること(authority)、契約が法令に違反しないこと(no conflict)、係属中の訴訟がないこと(no litigation)、知的財産権を侵害していないこと(non-infringement)などが含まれます。

この条項はIndemnification条項と密接に連動します。表明保証が虚偽であった場合(breach of representations and warranties)、それがIndemnificationのトリガーとなり、虚偽の表明を行った当事者に補償義務が発生するという構造です。

交渉ポイントとしては、Knowledge Qualifier(知識限定修飾語)の挿入が重要です。"to the best of [Party's] knowledge"(当事者が知る限り)を追加することで、知らなかった事実についてまで保証責任を負うリスクを限定できます。また、Materiality(重要性)の限定——"no material litigation"(重要な訴訟がないこと)のようにmaterialを挿入することで、軽微な事項まで保証違反となるリスクを抑えることができます。

④ Termination(解除条項)——出口戦略を確保する

Termination(解除条項)は、契約を終了させる条件と手続を定める条項です。ビジネスの状況が変化した際の「出口戦略」として、極めて重要な実務的意義を持ちます。

解除のトリガーには主に3種類あります。Material Breach(重大な契約違反)による解除、Insolvency(倒産・支払不能)による解除、そしてTermination for Convenience(便宜上の解除=理由を問わない解除)です。

Material Breachによる解除の場合、通常はCure Period(治癒期間)が設定されます。"If either party commits a material breach of this Agreement and fails to cure such breach within [30] days after receiving written notice thereof, the non-breaching party may terminate this Agreement"(いずれかの当事者が本契約の重大な違反を犯し、書面による通知後[30]日以内に当該違反を治癒しない場合、違反のない当事者は本契約を解除できる)というのが典型的な構造です。

交渉ポイントとして、Termination for Convenienceの有無は必ず確認しましょう。この条項があれば、理由を問わず一定の予告期間をもって契約を終了できます。自社にとって不利な契約からの撤退手段として重要です。また、Cure Periodの長さ(短すぎると治癒の機会が不十分、長すぎると問題の放置につながる)や、解除後の知的財産権の帰属、残存条項(Survival Clause:解除後も存続する条項の範囲)も交渉対象です。

⑤ Governing Law & Dispute Resolution(準拠法・紛争解決条項)

Governing Law & Dispute Resolution(準拠法・紛争解決条項)は、契約の解釈に適用される法律と、紛争が発生した場合の解決手続を定める条項です。契約書の末尾に配置されることが多いですが、契約全体の解釈を左右する重要条項です。

準拠法の選択は、契約書の他の条項の解釈に直接影響します。たとえば、ニューヨーク州法を準拠法とする場合と日本法を準拠法とする場合とでは、Indemnificationの解釈や損害賠償の範囲が大きく異なることがあります。

紛争解決手段としては、裁判(Litigation)と仲裁(Arbitration)の2つが主要な選択肢です。国際取引では仲裁が選択されることが多いですが、これはニューヨーク条約に基づき仲裁判断が150カ国以上で執行可能であるのに対し、外国の裁判所の判決は執行が困難な場合があるためです。

交渉ポイントとして、中立地(シンガポール、香港、ロンドン等)での仲裁が最も合意しやすい落としどころになるケースが多いです。仲裁機関としては、ICC(国際商業会議所)、SIAC(シンガポール国際仲裁センター)、JCAA(日本商事仲裁協会)、HKIAC(香港国際仲裁センター)等があり、選択する機関によって手続の迅速性、費用、仲裁人の質が異なります。

英文契約の交渉で使える実践フレーズ

英文契約のレビューで修正すべき点を見つけたら、次は交渉です。修正提案は、相手に受け入れてもらいやすい形で伝えることが重要です。以下に、契約交渉で頻出するフレーズを紹介します。

修正を提案する場合には、修正の理由と目的を添えることで、相手の理解と協力を得やすくなります。

  • "We'd like to propose an amendment to Section [X]. Our concern is [specific risk], and we believe this modification would better reflect the risk allocation we discussed."

条件を限定する場合には、「全面拒否」ではなく「条件付き受諾」の形が交渉をスムーズにします。

  • "We're comfortable with this clause in principle, provided that it's limited to cases of material breach and subject to the liability cap in Section [Y]."

相手の提案を丁重に断る場合には、断る理由を明確にし、可能であれば代替案を添えます。

  • "We understand your position on unlimited liability, but we're unable to accept that level of exposure. As an alternative, we could agree to a liability cap equal to [X] times the annual contract value."

表現の修正を提案する場合には、相手の意図を確認しつつ、より明確な表現を提案します。

  • "We want to make sure we're aligned on the intent of this clause. Would you be open to rewording it as follows, which we believe captures the same intent more precisely?"

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まとめ:「構造を知り、重要条項を押さえ、交渉ポイントを見極める」

英文契約書の読みこなしは、最初は骨の折れる作業です。しかし、全体構造の把握、高リスク条項の特定、主語と述語の確認——この3ステップを繰り返すことで、契約書を読むスピードとリスク判断の精度は着実に向上します。

本記事で紹介した5つの重要条項(Indemnification、Limitation of Liability、Representations & Warranties、Termination、Governing Law & Dispute Resolution)のパターンを覚えておけば、初めて見る英文契約書でも「どこに注目すべきか」が自ずと見えてきます。

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よくある質問

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まず確認すべきは、Governing Law(準拠法)とDispute Resolution(紛争解決)です。この2つが契約全体の解釈と紛争時の手続を決定するため、最初に把握しておくと他の条項の読み方が定まります。次に、Indemnification(補償)とLimitation of Liability(責任制限)をセットで確認し、契約全体のリスクプロファイル(最悪の場合にいくら負担するか)を把握しましょう。

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Indemnifyは、相手方が被った損害(損害賠償金、和解金等)を金銭的に補償する義務です。Hold Harmlessは、相手方に一切の損害を被らせないようにする義務であり、Indemnifyよりも広い概念として解釈されることがあります。また、Defendは第三者からのクレーム・訴訟に対して自らの費用で弁護士を雇い防御する義務です。3つが並記されている場合(indemnify, defend, and hold harmless)は、最も広い範囲の補償義務を負うことになるため、自社が補償当事者となる場合は範囲の限定を検討しましょう。

A

上限金額は業界や取引の性質によって異なりますが、一般的な目安として以下が参考になります。SaaS・IT系の契約では過去12ヶ月間の支払額の1〜2倍、製造業の供給契約では欠陥製品に起因する損害に対して契約金額の100%、コンサルティング契約ではフィーの1〜3倍が標準的な相場です。ただし、これはあくまで出発点であり、取引のリスクプロファイルと自社のリスク許容度に基づいて個別に判断する必要があります。

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AIツールは英文契約書の全体把握や初期ドラフトの作成には有用ですが、翻訳だけではレビューにはなりません。英文契約書のレビューとは、法的リスクの特定、自社にとっての不利条項の発見、修正案の策定を含む作業です。AIは「何が書いてあるか」を理解する補助にはなりますが、「その条項が自社にとってどのようなリスクをもたらすか」「交渉でどう修正すべきか」の判断は、ビジネスと法的文脈への理解が必要です。AIは補助ツールとして活用しつつ、重要条項は自分の目で確認する習慣を維持しましょう。

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取引金額が小さく、自社の標準契約書を使う場合は事業部門だけで対応可能なケースもあります。しかし、相手方が提示してきたドラフトで、Indemnification、Limitation of Liability、Governing Lawの条項を含む場合は、法務部門や外部弁護士のレビューを受けることを強く推奨します。これらの条項は、一見すると定型的に見えても、1語の違いでリスクの大きさが大幅に変わるためです。本記事で紹介した5つの重要条項のチェックポイントを事業部門で先に確認し、リスクポイントを特定したうえで法務部門に相談する——このフローが最も効率的です。

執筆者について

田中 達也

田中 達也

ELT日本法人 代表

早稲田大学創造理工学部総合機械工学科を卒業後、同大学大学院に進学し、数値流体解析の研究に取り組む。大学院在学中、アメリカ・ヒューストンにあるライス大学で招聘研究員として宇宙船の流体シミュレーションに従事する。日本に帰国後は研究を継続する傍ら、ハーバード大学やインペリアル・カレッジ・ロンドンでキャリアフェアの開催を手掛ける。2019年には在学中にセキジン合同会社 (現 株式会社 ELT Education) を設立。2020年、英国法人 ELT School of English Ltd. と提携し、日本市場向けのオンライン英会話事業を開始。創業以来、1,000名以上の英語学習者のカウンセリングを行う。

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