IBディプロマ・プログラム(IB DP)とは、国際バカロレア(IB)の最終課程(16〜19歳対象)であり、6科目+コア3要件(TOK/EE/CAS)を2年間で修了する世界最難関の高校カリキュラムの一つです。6科目(各7点満点)+コア(最大3点)の合計45点満点で評価されます。
2025年5月試験のIBO公式統計では、世界平均30.58点、合格率81.26%。約202,000名が受験し、40点以上を取得したのはわずか4.68%(約9,500名)でした。
DPは過酷です。しかし「過酷=不可能」ではありません。正しい科目選択と時間配分があれば、DPは攻略可能な「戦略ゲーム」です。
この記事では、DPの科目構造、Math AA vs AIの判断基準、TOK/EE/CASの具体的な攻略法、IA(内部評価)の対策、2年間のタイムライン、そして40点以上を取るためのスコア設計まで、DPを戦い抜くための実践情報を網羅します。
IBの全体像(PYP/MYP/DPの仕組み、認定校リスト、大学進学等)を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
国際バカロレア(IB)完全ガイド:PYP・MYP・DPの仕組みから科目選択・大学進学まで徹底解説【2026年版】
DPの科目構造——Group 1-6の具体的な科目と選び方
DPでは6つの教科グループから各1科目を選択し、そのうち3科目をHL(Higher Level / 上級)、3科目をSL(Standard Level / 標準)として履修します。HLはSLの約1.5倍の授業時間があり、学習内容もより深い水準まで掘り下げます。
6つの教科グループと主要科目
Group | 分野 | 主な科目 | HL/SLの選択ポイント |
|---|---|---|---|
1 | 言語と文学(母語) | Japanese A Literature, English A Language & Literature | 日本人は通常Japanese A。HLは高度な論述力が求められる |
2 | 言語習得(外国語) | English B, French B, Spanish B, Mandarin ab initio | 英語環境で育った生徒はEnglish B HLも選択可能 |
3 | 個人と社会 | History, Economics, Geography, Psychology, Business Management, Global Politics | 志望学部と直結。経済学部ならEconomics HLを推奨 |
4 | 理科 | Physics, Chemistry, Biology, Computer Science, ESS | 医学部志望ならChemistry HLがほぼ必須 |
5 | 数学 | Math AA (Analysis and Approaches), Math AI (Applications and Interpretation) | 理系ならAA HL一択。後述の詳細比較を参照 |
6 | 芸術 | Visual Arts, Music, Film, Theatre, Dance | 他Groupから追加1科目で代替可能 |
Group 6を取らずに理系科目を増やす方法
Group 6(芸術)は、他のGroupから追加科目を選ぶことで代替できます。たとえば「Physics HL + Chemistry SL」のように理科を2科目取ることが可能です。医学部志望(Chemistry HL + Biology SL)や工学部志望(Physics HL + Chemistry SL)に多い選択パターンです。
HL/SL選択の鉄則
「得意な科目」ではなく「志望大学の必須科目(Prerequisites)」をHLにする。 たとえばOxfordの医学部はChemistry HLを必須とし、CambridgeのEngineeringはMath AA HLを要求しています。HLとSLの選択ミスは、出願段階になって初めて気づくケースが多く、取り返しがつきません。
Math AA vs Math AI——この選択が進路を決める
DPの科目選択で最も注意が必要なのが数学です。Math AA(Analysis and Approaches)とMath AI(Applications and Interpretation)は、名前が似ていますが内容も大学での評価もまったく異なります。
2つの数学コースの違い
項目 | Math AA (Analysis and Approaches) | Math AI (Applications and Interpretation) |
|---|---|---|
学習内容 | 微積分、証明、純粋数学重視。日本の数学Ⅲに近い | 統計、モデリング、データ分析重視。電卓を多用 |
難易度 | HL: DP最難関科目の一つ。SL: 標準的 | HL: 統計の深い理解が必要。SL: 比較的取り組みやすい |
向いている進路 | 工学部、理学部、経済学、コンピューター科学 | 社会科学、人文系、ビジネス、心理学 |
大学の要求 | トップ大の理系・経済はAA HLを必須にするケースが多い | 一部の工学部・経済学部ではAI HLが受け入れられない |
「簡単だから」でAIを選ぶのは最も危険な判断です。 特に医学部、工学部、経済学部のトップ校はMath AA HLを必須条件にしているケースが大半。「迷ったらAA」が安全策です。
志望学部別の鉄板科目組み合わせ
志望学部 | 推奨HL 3科目 | 推奨SL 3科目 | 注意点 |
|---|---|---|---|
医学部 | Chemistry, Biology, Math AA | 母語, English B, 1科目 | Chemistry HLはほぼ全大学で必須 |
工学部 | Math AA, Physics, Chemistry | 母語, English B, 1科目 | CambridgeはMath AA HLで7を要求 |
経済学部 | Economics, Math AA, History | 母語, English B, 1科目 | LSEはMath AA HLを強く推奨 |
法学部 | History, English A, Language | 母語, Math, 1科目 | エッセイ力がHLスコアを左右 |
心理学部 | Psychology, Biology, 1科目 | 母語, Math AI, English B | PsychologyのIAがユニークで大学へのアピール材料に |
コア3要件の攻略法——TOK・EE・CASで「たった3点」が命取り
DPの45点満点のうち、コア(TOK+EE+CAS)は最大3点。「たった3点」に見えますが、この3点を確実に取れるかどうかが40点の壁を越えるカギです。さらに、CASが未達成だとスコアに関係なくディプロマは授与されません。
TOK(Theory of Knowledge / 知の理論)——高得点を取る3つのコツ
TOKは「知識とは何か」を問う哲学的な科目で、エッセイ(1,600語)と展示(Exhibition)で評価されます。
「正解がない」のがTOKですが、「高得点が取れる論文構造」は明確に存在します。
コツ①: 知識の領域(Areas of Knowledge)を2つ以上比較する。 たとえば「数学における確実性と、歴史における解釈の多様性」を対比する。1つの領域だけで論じるとスコアが伸びません。
コツ②: 具体的な実例(Real-life Examples)を使う。 抽象的な議論だけでは低評価になります。実際の科学的発見、歴史的事件、自分の経験などを具体的に引用します。
コツ③: 反論(Counterclaim)を必ず含める。 自分の主張に対する反論を提示し、それに再反論する構造がA評価の条件です。「一方向の主張だけ」のエッセイはBが上限と考えてください。
EE(Extended Essay / 課題論文)——テーマ選びが成否の8割
EEは4,000語の学術論文で、大学の卒論レベルの質が求められます。EEで最も重要なのは「何について書くか」のテーマ選定です。
鉄則①: Research Question(問い)を具体的に絞り込む。 「地球温暖化について」のような広すぎるテーマは確実に失敗します。「東京の都市緑化政策が2010-2020年のヒートアイランド現象緩和に与えた定量的効果」のように、検証可能な具体的な問いに落とし込みます。
鉄則②: 自分のDP科目の中から選ぶ。 EEの科目は自分が履修しているDP科目と一致させるのが基本です。履修していない科目でEEを書くのは難易度が跳ね上がります。
鉄則③: データへのアクセスが可能なテーマを選ぶ。 一次資料やデータセットに自力でアクセスできないテーマは避けてください。データが手に入らず途中で行き詰まるのはEE失敗の最も多いパターンです。
EEの評価は、Research Question(問いの質)、Methodology(方法論)、Analysis(分析)、Reflection(振り返り)の4軸で行われます。
CAS(Creativity, Activity, Service)——点数なしでも手を抜けない理由
CASは点数化されませんが、未達成だと即ディプロマ不授与(Diploma Not Awarded)です。2年間にわたる活動の「記録(Reflection)」と「継続性」が評価されます。
実務的なコツ:
- DPが始まる前からCASの計画を立てておく。 Year 1の9月からすぐに活動を開始できる状態にしておく
- DPの科目と関連づけた活動を設計する。 Economics HLを取っている生徒がNPOでマイクロファイナンスのボランティアをする、のように科目との接点があると効率的で、大学出願のPersonal Statementにも活かせる
- Reflectionを溜めずに書く。 2年間の最後にまとめて書こうとすると破綻します。活動ごとにその日のうちに振り返りを書く習慣が不可欠
IA(Internal Assessment / 内部評価)——最終試験と同じくらい重要な「もう一つの試験」
IAは各科目で課される校内評価で、最終スコアの20〜30%を占めます。最終試験に比べて軽視されがちですが、IAのスコアが低いと最終試験で高得点を取らなければならなくなり、プレッシャーが跳ね上がります。逆にIAで高得点を取れば、最終試験のプレッシャーを大幅に軽減できます。
科目別のIA形式と配点比率
科目カテゴリ | IAの形式 | 配点比率(目安) |
|---|---|---|
Group 1(言語A) | Individual Oral(口頭発表)+ Written Tasks | 20〜30% |
Group 2(言語B) | Individual Oral | 25% |
Group 3(社会科学) | リサーチエッセイ(2,000語前後) | 20〜25% |
Group 4(理科) | 実験レポート(個人調査) | 20% |
Group 5(数学) | Mathematical Exploration(探究レポート) | 20% |
IAは「自分でテーマを選び、自分で調査・実験し、自分でレポートを書く」——DPの「探究型学習」の集大成です。
IA対策の鉄則: Year 1のうちからテーマ選定と予備調査を進めておくこと。IAの提出期限は通常Year 2の前半(9〜1月)に集中しますが、この時期はEEの最終提出やTOKエッセイとも重なる「修羅場」です。Year 1の段階でIAのテーマと方向性を固めておけば、Year 2の負荷を大幅に軽減できます。
DPの2年間タイムライン——Predicted Scoreから逆算する
DPの2年間には、IA提出、EE執筆、大学出願、最終試験が明確なタイムラインで進みます。「いつ何をすべきか」を把握し、逆算して準備することがDP攻略の前提条件です。
時期 | イベント | やるべきこと |
|---|---|---|
Year 1 9月 | DP開始。6科目+TOK+CAS開始 | 科目選択の最終確認。CAS活動開始。EEテーマ候補を考え始める |
Year 1 10〜12月 | 最初の定期試験・Mock | Predicted Scoreの基礎になる。手を抜かない |
Year 1 1〜3月 | EEのテーマ決定、Research Question確定 | 担当教員とのスーパービジョン開始 |
Year 1 4〜6月 | IA予備調査・実験開始(一部科目) | 夏休みを使ったIA/EE執筆の計画を立てる |
Year 1 7〜8月 | 夏休み | EEの本文を夏休み中に大幅に進める。ここが最大の勝負どころ |
Year 2 9月 | 大学出願準備開始 | Predicted Scoreが確定。志望校リスト確定 |
Year 2 10月15日 | Oxford/Cambridge/医学部 UCAS締切 | Predicted Score+Personal Statementで出願 |
Year 2 11〜1月 | IA提出期限。EE最終提出 | IA・EE・TOKの同時提出が重なる「修羅場」 |
Year 2 1月末 | その他の英国大学 UCAS締切 | |
Year 2 2〜3月 | TOKエッセイ最終提出 | |
Year 2 5月 | 最終試験(世界統一) | 約3週間で6科目の筆記試験 |
Year 2 7月 | Results Day | スコア確定。Conditional Offerの条件と照合 |
Predicted Scoreの重要性
英国の大学も日本の大学のIB入試も、多くの場合Predicted Score(学校が発行する予測スコア)で出願を受け付けます。 UCASの出願(10月〜1月)は最終試験(5月)の前に行われるため、大学はPredicted Scoreで条件付き合格(Conditional Offer)を出し、最終試験後にスコアが条件を満たしているか確認する仕組みです。
つまりYear 1の最初の定期試験からすべてがPredicted Scoreに反映されます。「Year 2から本気を出す」は通用しません。
スコア戦略——40点以上を取るために何を優先すべきか
世界統計で見るDPの現実(2025年5月試験)
指標 | 数値 |
|---|---|
受験者数 | 202,103名 |
世界平均スコア | 30.58点 |
合格率(ディプロマ取得率) | 81.26% |
40点以上取得者 | 9,456名(全体の4.68%) |
科目平均グレード | 4.89(7点満点中) |
出典: IBO公式 Statistical Bulletin, May 2025
40点以上を取ったのは全受験者のわずか4.68%。Oxford/Cambridgeを目指すなら、上位5%に入る必要があります。
コアの3点を確実に取る——最も効率的なスコアの「稼ぎ方」
コアの3点はTOKとEEの評価の組み合わせマトリクスで決まります。TOKでA+EEでAなら3点、TOKでB+EEでBなら1点です。
6科目で42点(平均7点)を取るのは至難ですが、コアの3点を確実に取れれば、6科目は平均6.5点(合計39点)で42点に到達できます。
「TOKとEEは捨て科目」は最も危険な戦略ミスです。 むしろコアの3点は、正しい方法論を学べば比較的安定して取れる領域です。
6科目のスコア配分を「設計」する
全科目で7を取る必要はありません。現実的な目標設定が重要です。
40点を目指す場合のスコア設計例:
HL: 7 + 7 + 6 = 20点
SL: 6 + 6 + 5 = 17点
コア: 3点
合計: 40点HL科目で7を取ることがConditional Offerの条件になることが多いため、HLの3科目に学習時間を傾斜配分し、SLは「5以上を確実に取る」レベルに留めるのが戦略的です。
日本人がDPで直面する壁と実務的な対策
CALP(学習言語能力)の不足がスコアを直撃する
「日常英語は流暢なのに、HistoryのエッセイでBから上がらない」「BiologyのIA(実験レポート)で考察(Evaluation)がうまく書けない」——こうした悩みの原因はCALP(Cognitive Academic Language Proficiency / 学術的な言語能力)の不足です。
対策: 科目ごとの「アカデミック英語テンプレート」を身につける。
- 分析結果を述べる: "This suggests that..." "The data indicates a correlation between..."
- 限界を認める: "A limitation of this approach is..." "This result should be interpreted with caution because..."
- 仮説を検証する: "The data supports the hypothesis that..." "Contrary to the initial prediction..."
これらの定型表現を科目ごとに身につけるだけで、エッセイやIAの質が大きく変わります。
TOKとEEの「正解のない問い」への恐怖を克服する
日本の教育では「正解を再現する」ことが評価されますが、IBでは「自分の論(Argument)を構築する」ことが評価されます。
対策: Year 1の早い段階から「小さなエッセイ」を書く練習を積む。 いきなり4,000語のEEは書けません。まず500語の論証エッセイから始め、構造(主張→根拠→反論→再反論→結論)を体に染み込ませてから、段階的に長い論文に取り組みます。
DPの2年間を戦い抜くパートナー——ELTのIBサポート
DPは「エベレスト登山」に例えられるほど過酷ですが、正しいルートとガイドがあれば登頂は可能です。燃え尽き(Burnout)を防ぎながら、戦略的にスコアを積み上げることがDPの成功の鍵です。
ELTでは、IB経験豊富なプロの講師が「DPのシェルパ(ガイド)」として伴走します。
- 科目指導: Math AA/AI、Physics、Chemistry、Economics等のHL/SL科目を英語のまま分かりやすく解説。答えを教えるのではなく「どう考えるか」を伴走
- TOK/EEサポート: テーマ設定の壁打ちから、論理構成の添削、引用ルールの指導までマンツーマンで指導
- IA添削: 科目ごとのIA評価基準(Rubric)に基づいた具体的なフィードバック
- CALP強化: 科目別のアカデミック英語テンプレートを身につけ、エッセイとIAのスコアを底上げ
- Predicted Score対策: Year 1からの計画的なスコア積み上げ戦略を設計
- 大学出願: Personal Statementの添削、志望校選定、UCAS対応








